『映画与太話』 
桑原 ひろし
『映画あれこれ』をご記憶の方があれば、それの延長です。筆者としてみれば、あれは若気のいたり、恥ずかしいことばかりの駄文でした。
最近、暇で貧乏なもので、読書に励んでいます。
『竜馬がゆく』『飛ぶが如く』『坂の上の雲』『ふくろうの城』で司馬遼太郎の長編を。西口克己の『廊』、松本清張『深層海流』の読み返し。北川幸比古『西郷隆盛』で明治維新のおさらい。
ルポルタージュでは三池炭坑を扱った『閉山』。山田洋次談集『映画はおもしろいか』『人生はつらいか』めちゃくちゃ面白い三国連太郎と梁石日の対談『風狂に生きる』。梁石日の小説『族普の果て』『Z』『断層海流』『雷鳴』。ご存知映画『月はどっちに出ている』の原作者。ヤン・ソギルと読む。山本周五郎賞を昨年『血と骨』で受賞。今最も注目さるるべき作家。
白井佳夫『白黒映画礼賛』をテキストに、日本映画の名作をビデオで再見。渋谷実の『現代人』に惚れ惚れ。
三国連太郎のデビュー作『善魔』にニヤニヤ。三国自身のお気に入りは『夜の鼓』『飢餓海峡』『異母兄弟』。『釣りバカ日誌』には触れてもいない。ATG全盛期には弁当持参で映画館通い。(私、『厳戒令』観ています。別役実脚本。吉田喜重監督!)役のためには歯を抜き、女優に女のすべてを見、仕事に粘り、写真出演だけで数百万円の出演料を貰い、独立プロではノーギャラまたは脚本の直しをやり、金策にはしる。勝新太郎の天才の片鱗触れ、某監督から川原乞食うんぬんと言われ、あるときは小玉誉志夫(『戦争と人間』)、笹川良一(『野生の証明』)。黒沢明監督とは縁がなかったか、出たくなかったか。とかく、日本映画が大きな影響力と人間を掴まえる迫力を持ってた頃の幸福で豪快な話。
司馬原作で成功したのは『暗殺』『人斬り』『幕末』か。『御法度』は未見。『ふくろうの城』は残念。誰か「西南の役」をやらないか。
西南の役の国事犯を三池炭坑に入れ、囚人労働をさせた。政商三井は実に五十四年間に亘り、囚人労働を行い過酷な収奪を行った。保安のサボタージュの末、多くの労働者を事故で殺し、一酸化炭素中毒患者を生み、企業による犯罪が法廷で裁かれたのは、やっと数年前のこと。最近、水俣と三池の弁護団による分厚い本が出た。(これはまた別の機会に。)
国の成り立ちの古墳時代から明治維新、自由民権運動と孫文、西郷隆盛。差別と在日と九州は興味ぶかい。
梁石日に興味を持ったのは、韓国映画『シュリ』を観たから。香港かアメリカ映画風の面白すぎる(いや、情念が韓国だ。)展開にやや戸惑う。斎州島のラストは意味深でロマンチックでは済まない。(これはまた別の話で。)
黒沢の遺稿映画『雨あがる』に不満あり。脱藩は上意討ちが侍の掟。殿様がお節介だと封建制は成り立たない。夜鷹と老人の件は貧困を理解していないとこうした演出になる。山本周五郎と黒沢明の偉大さを思い知る。
どうも最近の映画は子どもっぽいと思っていたら、『マグノリア』と『クッキー・フォーチューン』でアメリカの異端児が大人の作品を創った。 (敬称略)
* 『すぎなみ文化通信』 2000年 5月号(No.135) 掲載 |