***すぎなみ・今昔物語***
【9】

『母さんの今日の料理』
                    

      長谷川 倫子
 (杉並区松庵 在住)

 戦後の乏しい食糧事情の中で、九人家族に食べさせてきた母さんの料理。母さんの着物は、すべて米や粉や芋に替った。

★たいこ焼き
 小麦粉をつなぎに少し入れた「とうもろこし粉」に甘味を入れて、型に流しいれて焼く。父さんの毎日のお弁当だった。



★干しいも
 蒸したさつま芋を薄切りにして天日干し。屋根に広げて干してあったのを、まだ半干しでも姉と二人でつまみ食いした。


★うす焼せんべい
 小麦粉のたらし焼き。年の小さい順に一枚ずつ順番待ち。






★ドーナツ型パン・ケーキ
 器は父さんが見つけてきた。パンとケーキとクリスマスケーキ(生クリームぬって飾りつけて)を焼く。



★食パンに大なべいっぱいのクリーム
 小麦粉をのり状に溶いて砂糖で甘味。白砂糖は高いので三温糖。玉子二個で薄いクリーム色。

★ドーナツ
 卓袱台(ちゃぶだい)いっぱいに生地を広げ、お茶缶のふたと小さいビンのふたでドーナツ型ぬき。最後の小さい抜きくずは、子どもたちの小麦粉粘土揚げ。

★なすしぎ
 裏庭のごみ捨て穴に土を持ってナスの苗を植えた。たくさんナスが採れて油味噌ナスとなった。

★さつま芋の天ぷら
 大きくて水っぽくて、中は薄い灰色っぽいさつま芋。うすく切手天ぷらにして新聞紙いっぱいに広げられていた。衣は玉子一個を水で薄くのばしたどろどろ小麦。年の小さい順に一列に並んでひとつずつ味見。

★じゃがんビーフ
 ふかし鍋いっぱいにふかしたジャガイモをすりこぎでつぶして、野村牛肉店(先代)のコロッケ二〜三個をまるごとつぶしてまぜ、丸型おやきに成形して油で焼く。母さんの名づけ。

★牛のしっぽ(オックステイル)のぶつぎりと大豆の圧力鍋やわらか煮
 圧力鍋は父さんが見つけてきたらしい。シューシューと蒸気を吹いて大活躍していた。

★太巻き寿し 
 なかみは卵焼き、かんぴょう煮、ほうれん草、でんぶ。春の上野動物園へのお弁当。年に一度、父さんと母さんは子どもたちを連れて行った。卓袱台いっぱいに並んだ太巻き寿し。巻きすがなくて、母さんはふきんで巻いていた。
私は、寿しはふきんで巻くものと育ち、今でもふきんで巻く。

★季節の大御馳走
 竹の子御飯、青豆甘煮、青豆御飯、松茸御飯。おばあちゃまの京都のお知り合いからの季節の贈り物が届いた時。

★カステラ切り落としのショートケーキ
 木の箱車にカステラの切り落としを入れて引き売りしていたおじさんがいた。カステラ屑を組み合わせ、クリームをぬり、薄切りイチゴをはさんで重ねて、弁当箱に入れて型作り。

 家族のために、あれこれ考えて料理してきた母さん。今はもう何も作らなくなってしまった。

           杉並区松庵在住      長谷川 倫子

    
      
 
『すぎなみ文化通信』・2002年12月号より  

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後編

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