「永福には、作家の井上ひさしに似たおじさんがやっている銭湯があるよ。あそこはテレビもあってなかなかいいよ」
永福町で学生生活を送った知人の情報がきっかけで、今回は井の頭線沿線の永福町へとやって来た。5月5日、連休で込み合う中を、埼玉から一時間十五分かけてやっと目的地へ到着した。
改札を出て横断歩道を渡り、大判焼き屋と蕎麦屋の間にある静かな通りを入っていくと、噂の銭湯、「湯あみランド永福」が見えてきた。ギリシアの神殿のような柱を用いたその外観は、周りの喫茶店や不動産屋とは明らかに異なる雰囲気を放っている。恥ずかしながらこの日が銭湯初体験となる私は、通りを何度か行ったり来たりして、恐る恐る中へと入っていった。
番台の上で「いらっしゃい」と迎えてくれたのは、目当てのおじさんではなくおかみさんだった。「はい。四百円ね。じゃあ、このクジ引いてみて。いつも来る人より、あんまり見かけない人の方が当たるのよ」そう促されて引いてはみたものの、根っからクジ運の悪い私はやっぱりはずれだ。
「うわぁ、残念。はい、これ。あげるわよ」とおかみさんがくれたのは一本のヤクルト。気さくに声を掛けてもらったことで私の緊張はすっかりほぐれた。
銭湯というと「長い煙突に富士山の絵」というイメージがあったため、浴室に入ってびっくり。そこは、淡いグリーンとピンクを基調としたタイルが貼られ、壁には天使が描かれ、聞いていた通り大きなテレビが内蔵されていた。おまけに、流行の音楽まで流れている。お風呂の種類も、電気、泡、森林浴、露天、水風呂にサウナと豊富だ。テレビが一番良く見える場所で菖蒲湯につかり、露天風呂で約一畳分の永福の夜空を見ながら私は銭湯を満喫した。
帰り際、もらったヤクルトを飲みながらナイター中継を見ていると、番台には確かに井上ひさしに似たご主人の姿があった。
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