★たかはし★

* * * すぎなみ・まち歩き【5】 * * *
上井草〜井荻
「はねはね」編
 今にも雨が降り出しそうな空模様の中、高田馬場から西武新宿線へと乗り込む。ちょっと短い八両編成の電車は乗客もまばらで、帽子を被った人が目立つ。窓の外には銭湯だろうか、長い煙突が見える。初めての電車にワクワクしながらやってきたのは上井草だ。

 改札を出て、早稲田通へ向かって閑静な住宅街を歩く。すると一転して大きな畑が現れた。農芸高の実習場だ。広い敷地にはかぼちゃ、とうもろこし、きゅうり、といろいろな野菜が植えられている。

 路地を一本入り、井荻方向へ足を伸ばすと今度は立派な門構えの家が並んでいる。庭には一輪車と農具が置かれ、近くの畑には茄子がなっていた。およそ、これまでイメージしていた「東京」とは思えないその光景に自分が育った場所を重ねて嬉しくなり、ぐんとこの街を身近に感じた。

 環八を抜け、電車の中で見た煙突のある井草湯を通過して中瀬遊園へと向かう。かつてこの周辺には井草川が流れていたが、既に暗渠となり、三谷公園まで遊歩道が続いている。特に説明書きなどは見当たらないが昔、確かに川があったことを示す石碑が道の脇に幾つも置かれていた。

 青や赤紫のあじさいが群生する遊歩道を行くとついに雨が降り出した。そこで、井荻駅近くにある「はねはね」という器と喫茶の店で一休みすることに。

 バレエを習ってきた帰りだという女の子とお母さんの会話に耳を傾けながら、店のお姉さんお勧めの「キャラメレ」という紅茶とゴマが入ったサツマイモのクッキーをいただく。何でも、ここは美大出身のオーナーとその友達とでやっていて、オープンしてから4年になるという。一人で接客をするかわいらしいお姉さんもその友人の一人だ。

 店内にはオーナー手作りのガラス製品が置かれ、内装も凝っている。天井は竹のような木を重ねてできているようだ。「手作りなんですよ。天井も入り口のガラスもオーナーの手によるものなんです。それからこのパンやクッキーも作りたてを届けてもらってるんですよ」この店が好きでたまらないということが彼女の表情から伝わってくる。一度いれたお茶が好みに合わなかったのではないかと作り直してくれるほど親切なのも、その表れだろう。

 この周辺に生まれ育って26年の知人に「面白いものは何もない」と言われた街で、人に教えるのはもったいないような喫茶店を見つけて、再び黄色い電車に揺られ家路に着いた。



*今回は気持ちを新たにして、ずっと気になっていた街へ行ってきました。畑のせいでしょうか。歩いているうちに、初めて来た気がしない、何だか懐かしさを覚えるところでした。(由佳)

 『すぎなみ文化通信』・2002年8月号より  

【4】西荻窪
「ニヒル牛」編

お楽しみに!