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「お〜い、狸がいるぞ。と私は家内を呼んだ。「狸なんか、いるわけないでしょう。」と全く取りあわない家内。しかしどうしても狸に見える。「本当だよ。早く来て見てごらん。早くしないと逃げてしまうぞ。」と私は声を荒げた。咄嗟の大声に夕食の準備をしていた家内がすっ飛んで来てびっくり仰天した。「本当に狸みたいね。でもどうしてここにいるんでしょう。どこかのお宅で飼っているのが、逃げだして来たのかもしれないわね。」
この狸が出現した現場は杉並区下井草3−33−8。拙宅を建て替え中のため、建築期間中仮住まいとして借用したところである。開発し尽くされたといってもよいこの住宅地のど真ん中に、今時狸なんかがいるはずはないと思い込んでいるので、まさか野生の狸の存在など今まで知る由もなかった。
最初に現れたのは、平成12年9月28日の夕方であるが、その後12月2日仮住まいを退去するまでの間に、5回も出没した。夕方が4回、早朝が1回である。現れるときはすべて一匹の単独行動で、時として大きかったり小さかったりしたので、ひょっとすると親子か兄弟かもしれない。
我が家には12歳になる雄猫を飼っているが、この周辺が動物にとって住み易いのか、野生の猫も多数往来し、さながら猫屋敷の様相を呈している。(これらの猫を呼ぶときは、シロ、シマ、トラ、三角などと呼ぶことにした) この猫たちが時として大喧嘩をしでかし、これに狸が参入することがあって賑やかなことこの上ない。特に餌を与えたときの奪い合いと言ったらすさまじい。一見おとなしそうに見える狸も、餌を目の前にすると野生をむき出しにするようだ。
この狸騒動について、当初はどうしようかと迷ったが、思案のあげく、飼い猫でいろいろお世話になっている近くの動物病院の獣医さんに家内が相談したところ、「この周辺には昔から狸も出るし、狐も出ますよ。子狸が現われたとすると子供が生まれたのかもしれませんね。狸については何もしないで放っておけばいいですよ。」といとも当たり前のように言われ、驚きの表情を期待していた家内は少々拍子抜けしてしまったようだ。近くに散在する地主さんの林を住処にしているようだ。
伜は、「狸がそんなに好きなら、餌付けして飼ったらいいじゃないか」と言う。しかし、狸を飼うとなると、ある程度の土地の広さと堅牢な施設が必要となるので、ちょっと無理かと思っている。
現在は拙宅も出来上がり、仮住まいから転居して「狸さん」にもお目にかかる機会がなくなったが、仮住まい中になついた野良猫の「黒ちゃん」の餌やりに家内共々出向いているので、そのうちに「狸さん」にもめぐり会えるのではないかと密かに期待している今日この頃である。
*『すぎなみ文化通信』 2001年 2月号 掲載  |