座談会
  『杉並の社会教育の
        未来を語る』 (2) 


* * * 座談会出席者  * * * * * * * * * *

・ 島田 修一先生(中央大学文学部教授・元中央大学杉並高校校長)
・ 高野ゆう子さん(「社会教育」杉並の会代表)
・ 玉置 泰史さん(高円寺若者雑学塾メンバー・元「ぎょうせい総合研究所」自治体コンサルタント)
・ 斎藤 尚久さん(杉並区社会教育スポーツ課 社会教育主事)
・ 芝 貞幸 (社会教育センター審議会委員・杉並文化問題懇談会代表) 
・ 竹内 ゆかり(「すぎなみ文化通信」編集長・杉並区児童館職員)

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【高野】 今考えてみると、私たちは、公民館時代、何でそんなに熱心に、年間20回も講座を組んだのかと思うんですよね。それは何か偉そうに、講座をつくっていくことではなくて、住民自治の精神を持ったそういう人たちが増えてほしいという願望だったのかな、と思うんですよ。今みな中身を考えないで、構造改革って流れていく、そういう人間になっていっちゃったのはなぜ? それは、無批判の人間を作るような、戦後の文部省の政策がうまくいったからだと思うんです。

【島田】 高野さんのおっしゃる現状分析や批判はまことにその通りで、私も同感だけど、社会教育というのは、そうじゃない人間をつくるために戦後ずっとやってきた。だから、社会教育が杉並の地域でどういうふうに育ったのか、丹念に追ってみないと。

 八王子市では、あんなに封建色の強いところだけど、公民館が有料化されるときには、ねばり強く使っている人に話しを聞いて、とうとう有権者の一割以上の署名が集まった。それで傍聴席を埋めている市民の前で予算案のついた原案が否決された。あとで、ゆり戻されちゃったけどね。そのときにはカラオケグループも、生け花のお師匠さんもいろんな人たちが集って、こもごも自分の思いを語るということを何回もやりました。私自身も八王子の住民としては、絶対、許せなかった。公民館運営審議会の委員をしていたのですが、それについて異議申し立てをしようとしたら、何人かは市長から任命された審議委員だから反対するわけにはいかないと。しかし「市長は市民の意見を聞かせてくださいと私たちを任命したんだから、私たちが市長に市民の意見を言うのは、本来の任務でしょう。」というわけで、多数の運営審議委員が意義申し立てをした。それでいろんな運動をすすめていった。

 玉置さんが、住民に怒りをおぼえると言うのはわかる。ちっとも動かないんだものね。だけど、中には社会教育会館がなくなったら困るという人もいる。その人を探せなかったら、それは玉置さんの負け。玉置さん一緒にやろうという人も出てきたら、一緒にやろうということでいいじゃないですか。

【玉置】 そうなんですよ。社会教育とはなんぞや、ということについて、将来こうあるべきというものを僕がまだきちんとつかんでいない。誰もが、社会教育はこういうふうにあるべきだと思っていないからだと思うんです。

【島田】 高野さんは、住民自治とおっしゃった。知恵を寄せ合って、自分たちのことは自分たちで決めていこうと。それが、社会教育の原点です。 でもおもしろいね。僕は、説得しようなんて思って発言しているんじゃないから、いろんな意見があって面白い。

   人と人とを つなげて

【竹内】 玉置さんがやろうとしている、「ひとり公民館」「青空公民館」は、何を目指しているのですか。

【玉置】 僕のひとり公民館は簡単で、高円寺社会教育会館がなくなった原因を全部克服するということなんです。社会教育会館というものを利用した人があまりにも一部だった。つまり、商店街の人たちが、社会教育会館と繋がっていなかった。あと、若者雑学塾に来るような一人暮らしの新住民と、昔から住んでいた旧住民との接点がなかった。接点を次々つなげていけば、多分、街中が公民館になる、と、僕は考えたわけです。

【竹内】 ということは、建物なしで実践していくんですか?

【玉置】 そうです。たとえば、高円寺では阿波おどりが盛んですね。来場者はどんどん増えている。ところが、スタッフはどんどん老齢化していっている。商売につながらないから、やめたがっている人も多い。そうすると僕は、アパート暮らしの新住民を阿波おどりにつなげていくようなことができないかな、と。阿波おどりで、商店街がもうかるように、もっと経済がまわるように、何かできないかなと。そういう流れをどんどんつくっていくことで、貸し館みたいなこの街が社会教育主事を中心にして、つながっていくのではないかと、思っているのです。

【高野】 予算は減らされる一方なのに、杉並をアニメーションの中心地にしますとか、あの区長、アドバルーンを上げるでしょう。しかも全部上から降ってくるんですよね。住民の自主的な活動を支えていくのが、行政の本来あるべき姿ではないかと思うんだけど、それがまるっきり、なくなっている。

【島田】 率直に言いますが、区長批判は出てくるんだけど、そして原則としては住民一人一人が地味につながっていくことが大事だと言われるんだけど、では、そのために今、何をしたらいいかと思われますか?

【竹内】 井草の母親講座、高円寺の若者雑学塾、高井戸のおやじ塾。これらはものすごくヒットしていると思います。井草の講座はお母さんが中心になって企画するから、本当にお母さんが欲しい情報が集まり、きちんとした託児が保障されているということで、いままで行政がやってきたものより一歩進んで注目されている。高円寺若者雑学塾も、これはおもしろいと思ってきたところで、社会教育会館がなくなってしまう、そういう企画自体もなくなっちゃう。

【島田】 あまりせっかちに言ってはいけないが、建物がなくなっちゃったら、こういう手もあるさ、とか、なくさないために人間の鎖で死守する、なんてのばかりでなくて、なくされちゃったら、こういうもので俺たちの文化活動を守るぞとか。なくなることについては、それは怒れる人で徹底的に怒って闘うことが大事だと思う。だけど、一方で玉砕すればいいというものではない。先程、街中公民館とおっしゃいましたね。

【玉置】 逆に、今まで社会教育会館に押し込めていたかも知れない。極端なことを言えば、みんなが頭の中から自治体とか国というものを取っ払っちゃって、さあ何をやろうかと考えるときが、住民自治だと思うんですよね。

新しい動きが   地域に生まれている

【竹内】 では、これからの可能性について、話を進めていきましょう。杉並区では、41の児童館が子育てネットワークを展開し始めています。子どもにかかわる地域の施設・保育園、学校、幼稚園、保健センターなどが行き来して、顔がつながって来ると、いろんな情報交換が出来る。次に地域住民も巻き込んでいこうということで、例えば、子育て情報ニュースなどをお母さんたちと一緒につくることで、いろんなアイディアが出てくる。地域課題を共有化するつながりが、広がり始めています。

【高野】 若い人たちは、すごくバラバラになっているような気がするんですよね。学校に参観にいったら、親たちの方が学級崩壊状態で、ファッションの話をしていたり。だけど一方で、小学生の親が、杉並区政の予算から何から勉強する会を始めたりしています。学校給食が真っ先に民営化されることになった、桃五小のお母さんたちです。ある時は杉九小のゆうゆうハウスに集って、教科書の問題に関わっている人たちから、教科書問題、教育委員問題を聞くとかね。そういう動きがないことはない。

【島田】 一杯あるではないですか! なんで最初、悲観的な話だったのか。

【芝】 高円寺社教会館の「あいあい祭」に関わり始めて三年くらいですけど、年々、集る人の数が多くなっています。若者雑学塾も、何か活気づいているよね。  保健センターの人たちも、えらく元気がいいですね。やはり、ネットワークづくりをずいぶん一生懸命やっています。社会教育センターと似たようなことをやっていて、しかも元気がいいなあなんて思ったりしているんですが。

【島田】 具体的には保健婦さんたちですか?

【芝】 栄養士とかそういう人たちが、社会教育主事がやるようなことをやっているんです。僕が関わっている「水無月クラブ」は、定年退職した男性だけのサークルです。最初、お父さんたちは地域のことについて驚くほど知識がないんですよ。でも、規約をつくったり、会議をすすめたり、そういうことはものすごく上手。気持ちのいい人たちで、一生懸命で、どんどんいろんなことをこなしていく。それで栄養士さんたちもそういった男性パワーを頼りにしています。

【竹内】 地域で生まれてくるいろんな芽とか、そういうものを聞くだけでも、エネルギーが出て来ますね。

【斎藤】 社会教育センターが情報を集めて「すぎなび」というニュースを出していますが、あれは一過性で、終わると消えてしまう。そういう意味でも、『すぎなみ文化通信』は、いい情報供給源となっています。つながりづくりの一つの窓口になってほしいな、と思っています。

【島田】 今聞いていて、とても面白かった。最初は評論家風な批判めいた話がいろいろ出てきたけど。僕だったら、弁当もってあちこち歩くね。ここにこんな面白いグループがあるねとか。わずか二時間の座談会で、これだけの事柄が出てきたりするなんて、びっくり。

 以前、社会教育の全国集会で、高円寺の児童館の鈴木雄司さんに報告してもらった事があります。児童館の子どもたちと地域の歴史を勉強してみて、こんなゴミゴミしたところで火事が少ないのはなぜだかと思ったら、江戸時代からの火消しの伝統があるんだと。それで消防署の話を聞きにいった。それから病院へ行って、子どもの病気の最近の様子を聞いてきた。学校へ行って学校の子どもたちの様子も聞いてきた。それから、お母さんたちと話をしてみた。そしたら、子どもたちが最近ませてきたから、やっぱり性の問題が心配だということになって、愛と性の講座というのをお母さんや青年たちと一緒に開いた。子どもを取り巻く地域や人々のことを考えると、学ばなければいけないこと、一杯つながらなければいけないことがわかってきた、という話を聞いて、ものすごく感動したんです。

 やっぱり、一つの地域に腰をすえて、その地域の子どもたちにつながるすべてを見ようと思えば、保健所も病院も学校も市役所も消防署も商工会も、みんな大事になってくるんですね。地域を見て歩いていくというところは、僕はその高円寺のレポートで教わった。だから さっきの、街中公民館というのもそういうことなんだよね。 みんながお互いに結びついていたり、影響を与えあったり、関心を持ったり、しているのがバラバラになった。でも、実はいろんな動きがあるんだと思っていたところ、雑学塾とか井草の子育て講座とかある児童館では子育てネットワークができているとか、区政や都政の財政を勉強しているグループがあるなんてすごい地区だと思えてくるわけ。そういったものが、僕は『すぎなみ文化通信』にも、かなり載っているんじゃないかと感じています。

 みなさんがやるかどうかわからないけど、そんな人たちとのつながりをいろんな形で、試みてみるということはとても勇気の出てくることじゃなかろうかと思います。

【玉置】 そうですね。

【島田】 かつて、ここでは杉並区職員労働組合がかなり地域問題のことについて勉強していて、地方自治研究集会がさかんに行われていましたよね。あれどうなったのかなあ、ということも気になるのですが、岡山市は三十いくつの公民館があって、全部嘱託員だったけれど、とってもいい活動をしていたから、住民の支持を得ていた。それを正規職員にしようという運動が始まった。

【玉置】 いや、何故そういうふうに財政を肥大化させていくんでしょうね。なぜ自治体に頼っちゃうんですかね。

【島田】 自治体というのは頼る対象とするのか、自分たちで新しくつくるものとするか、で大きく違うんだけど、それで、住民の運動もあったおかげで、市長は、公民館職員を六年間のうちに三十人全部正規職員にすると打ち出したんですね。自治省から、ものすごい圧力が加わったんだけど、長い間、地域住民のためになる公務員の仕事はどうあるべきかという自治研集会を積み重ねてきたから、市職労に対する市民の信頼が厚くて、税金食いのサラリーマンという批判をかなり前から乗り越えていたんです。しかし、30人正規になるわけだから、岡山市全体のどこかで30人減らさなくてならないわけでしょう。それで職員組合がそれを飲み込めるだけの力量がなければならないわけ。すると既得権にしがみついていた職場も含めて、徹底的に議論する。そこでは職員組合は健康に頑張ったね。そういう動きも生まれてきている。

【玉置】 しかし難しいですね。正直言って、なんでみんなは、自治体をでっかくしていこうという方向に行くんだろう。

【島田】 いろんな意見が出ているということはとてもいいことだし、それからこの杉並区には多様な動きがあるということなら、そんな人たちが顔を合わせたり、原稿を書いたり、つながりを持ったりするということも企画したらと思いますね。  

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 歴史的な背景から、今後の方向性まで、たいへん示唆に富んだ、学び多い座談会となりました。ありがとうございました。(編集部)

*『すぎなみ文化通信』2001年10月号(No.152号)掲載 


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